一人の死者と幾千の魂 41話:復讐の槍

一人の死者と幾千の魂

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復讐の槍

 計画の実行は今日の未明。共に暮らしている中で何度殺してやりたいと思ったことだろう。ただ武術に対する熟練度が違いすぎてその場で殺すことは難しかった。クロウの援助がなければこの復讐は実行することはできなかっただろう。

 俺は瘴霧の森の中で身を潜めながら、これからやって来る復讐の時を喜ばしく感じていた。狙うのはリヴェルと戦い疲れた後のヴェリドだ。自分に足りない戦闘能力を外的要因で補うことで復讐を完遂することができる。シグノアは俺に戦闘訓練をつけると言いながら、曖昧な指示しか出さないため技術が身についていないのだ。

 しかし実行するに当たって事前に手を打っておかなければならないことがある。それはヴェリドを守ろうとするであろうシグノアやガーリィをどのようにして妨害するかだ。彼らが傍に入れば敗北は確実だ。

 加えてシグノアはヴァンが復讐心を抱いていることを知っている。したがって俺が行動に移そうとしただけで詰みとなってしまう。ここに来るまでにシグノアによって殺されている可能性だってあった。

 彼らへの対策はクロウが担ってくれた。ガーリィはクロウ自身が対応し、シグノアにはクロウの手駒を使うらしい。シグノアの方が厄介そうに見えるが、戦闘能力としてはガーリィに軍配が上がるらしい。

 クロウが俺にここまで入れ込む理由は正直よくわからない。しかしそんなことは些細な問題だ。ヴェリドを殺すことができれば、クロウの手駒でも何でもやってやる。

 森の中でしばらく待った甲斐あって、森の中を歩くヴェリドの姿を捉えることができた。ようやく実行できると息巻いていたが、実際に得物を手にすると緊張感が違う。

 もし失敗すれば――。いやそんなことを考えてはいけない。成功や失敗など考えるものではない。絶対に殺してやるのだ。柄にもなく弱気な心持ちの自分にもう一度活を入れる。俺は、俺たち家族を断ち切った悪を殺さなければならない。

 森を歩くヴェリドは想定よりも外傷が少ない。もっと極限状態のヴェリドを狙う算段だったが、文句を言っても仕方がない。あくまでも殺すのは俺で、前提が多少狂った程度で失敗するほど抜けていない。

 それに予定通りガーリィはおらず、ヴェリド一人だ。クロウのヤツが上手くやってくれたのだろう。ガーリィがいれば想定が狂うどころの騒ぎではない。そんなことになれば、また別の機会を探す必要がある。

 ただそんなことはなく、俺は手に槍を持ってヴェリドをジッと見つめる。奇襲の一撃で致命傷を入れることができれば、その時点で勝ちだ。

 夜の森は音がよく響くため、物音を立てないように静かに立ち上がる。そして地面から少しだけ浮いたところに瘴気で道を確保する。こうすることで足音を立てずに移動できるのだ。

 手に持った槍に殺意と魔力を乗せて槍を構える。俺の魔力はヤツを殺すための魔力であり、その能力は尖りきっている。汎用性はないが決まれば殺せるはずだ。

 俺は茂みから飛び出してヴェリドの心臓を背後から突き刺す。

※×※×※

 リヴェルとの戦いの後で疲れているというのに、色々なことが頭の中でグルグルと走り回っている。それらは声高らかに自身の存在を主張していた。それらというのはボクが殺してしまった夫婦のこと、リヴェルを殺して手に入れたアークの記憶、それに苦しげな姿を見せたガーリィさんのことだ。

 どれか一つでも頭を悩ませてしまうというのに、同時に三つではどこから手を付けて良いのかすらわからない。どれも大切なことで適当に済ませるわけにはいかないのだ。

 疲れた身体と頭ではどうしようもないので、とっとと薬屋に戻って身体を休めたい。そしてまともな頭を悩ませようと思う。

 しかし疲れた身体でも瘴気を張り巡らせることは絶対にやめない。この暗闇で情報を手に入れるのに必須だからだ。これがなければろくに森を歩けない。

 だからだろうか、ボクは突然の背後からの奇襲に気がつくことができた。しかし気づくことができるのと回避することは完全一致するわけではない。心臓を狙った一撃は心臓を大きく外れてボクの左腕を斬りつけるだけに終わった。

「くっそ! 完全に殺ったと思ったのに!」

「どうしてはこっちの台詞だよ。なんでこんなことをしたの?」

 奇襲の主はヴァンくん、いやヴァンだった。シグノアさんに注意された通り、彼はボクを殺しに来たのだ。

「どの口が言うんだよ! やはりお前は悪だ、自分が犯した罪すら記憶していない犯罪者め!」

「ボクにもわかるように話してくれ!」

「どこに犯罪者の言葉を聞くやつがいるか! とっとと死ねよ!」

 状況を理解していないボクにヴァンは畳み掛けるように罵声を浴びせる。彼は罵声と共に槍でボクを突き殺そうと攻撃を仕掛けてきた。ボクは攻撃をギリギリでさばきながら彼との会話を試みる。

「どうしてボクを殺そうとするんだ」

「復讐以外になにがあんだよ! 俺たちの未来を奪ったなら、お前だって奪われなければならない!」

 鋭い言葉はボクの心に簡単に突き刺さる。斬りつけられた左腕から流れる血は指先まで伝っていた。

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